人生における、最も尊い時間。
新しい命の誕生に喜びと安堵が満ちる一方で、大きな仕事を終えた心と身体は、この上なく繊細になっています。

そんな特別な時に、ただ空腹を満たすだけではない、心そのものを温める食事がもしあるとしたら。

広島市にある藤東クリニック併設のレストラン「Porte Bonheur(ポルト ボヌール)」。その厨房は、華やかなレストランの喧騒とは無縁の、静謐な空気に包まれた特別な場所でした。

静寂が奏でる、職人たちの想い

「Porte Bonheur」の厨房に響くのは、食材を切る澄んだ音、鍋が静かに呼吸する音、そして職人たちの穏やかな息遣いだけ。そこには、経験豊かな料理人たちが、まるで祈るように一皿一皿と向き合う姿がありました。

彼らが大切にしているのは、四季の移ろいを繊細に感じ取り、素材本来の味わいを最大限に引き出すこと。急かさず、ただ静かに食材の声に耳を傾ける。その丁寧な手仕事の一つひとつが、産後のお母様の心と身体に優しく染み渡る味わいを創り出していくのです。

ひとつの皿に込められるのは、卓越した技術だけではありません。お母様への深い敬意と、健やかな回復への願い。その温かな想いが、料理に確かな命を吹き込んでいます。

地域の恵みを敬い、季節を映す一皿

厨房に届けられるのは、地元の生産者たちが丹精込めて育てた、旬の恵み。
春を告げる瀬戸内の桜鯛、夏の清流が育んだ鮎、秋の香り高い松茸、そして冬の滋味あふれる蟹。

料理人たちは、これらの食材一つひとつの個性を深く理解し、その輝きが最も増す調理法を静かに見極めます。それは、自然への感謝と敬意の表れ。お皿の上に、日本の豊かな四季そのものを美しく描き出すのです。

この一皿を通して、院内で過ごすお母様にも、外の世界の季節の移ろいと自然の豊かさを感じてほしい。そんな細やかな心遣いが、すべての料理の根底に流れています。

心を込めた、余白の美

料理の盛り付けにも、華美な装飾はありません。
そこにあるのは、季節の草花をそっと添えた、まるで茶席の懐石料理を思わせるような、凛とした日本の美意識です。

多くを語らずとも伝わる、控えめで上品な佇まい。
丁寧に引かれた余白の美しさは、食欲が落ちがちな時でも、不思議と心を惹きつけ、「美味しそう」と感じさせてくれます。これは、お母様の心にそっと寄り添う、料理人たちの無言の対話なのかもしれません。

「安心」という、揺るぎない土台

医療施設内のレストランとして、何よりも優先されるのは「安全と安心」です。
食材の厳格な管理から衛生的な調理環境まで、すべての工程において一切の妥協はありません。

さらに、管理栄養士と密に連携し、栄養バランスに優れた献立を作成。特に出産後のお母様にお届けする「御祝会席」は、身体に優しい食材を使いながらも、人生の輝かしい一幕にふさわしい、記憶に残る味わいを追求しています。

静かな厨房の背景には、食の安全を守り抜くという、料理人たちの揺るぎない覚悟と誇りが存在します。

「幸福の扉」から届ける、温かな祈り

レストランの名「Porte Bonheur」は、フランス語で「幸福の扉」「幸せをもたらすお守り」を意味します。

厨房から生まれる一皿一皿には、その名の通り、お母様と新しいご家族の未来に、幸多かれという静かな祈りが込められています。

病院での食事が、単なる栄養補給の時間ではなく、心を癒し、明日への希望を育む、温かな思い出となるように。

藤東クリニックの厨房は、今日も静寂の中で、世界で一番優しい料理を創り続けています。

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