ここは本当に、産婦人科クリニックなのでしょうか
切子調のガラス鉢に敷き詰められた氷の上、涼をまとって咲く旬魚の彩り。漆黒の折敷にぽつりと灯る、ほおずきの小さな提灯。土鍋の蓋を開ければ、炊きたてのごはんの湯気――。
これは料亭の話ではありません。広島県安芸郡府中町の産科・婦人科「藤東クリニック」で、ご出産を終えたお母様に実際にお出ししている御祝会席です。

当院は、女性のライフサイクルに寄り添った医療を目指しています。そのために大切にしているのが「気軽さ」。医療施設としての機能はもちろん、ホテルの設えのような空間づくり、陽の光を多く取り込んだオープンな環境、そして女性の楽しみのひとつである「食」のホスピタリティ。「病院らしくない病院」は、当院がずっと磨き続けているおもてなしのかたちです。
3階レストラン「Porte Bonheur(ポルト ボヌール)」――フランス語で「幸福の扉」。お食事をされる皆様に幸福が訪れますようにと願いを込めて名付けました。御祝会席は、ご家族様とご一緒にお召し上がりいただけます。出産という大仕事を終えたお母様の、はじめての「おつかれさま」の席。その一皿一皿を、今月もご紹介します。
2026年 葉月 御祝会席 献立
旧暦8月の和風月名は「葉月」。暦の上では立秋を迎え、まぶしい夏の光の中に、ふと秋の気配がまじりはじめる頃です。お盆に飾るほおずきは、ご先祖様が迷わず帰って来られるようにと灯す「提灯」に見立てられてきました。今月の御祝会席には、そのほおずきが小さな灯りをともします。新しい命を迎えたご家族の食卓を、やさしく照らすように。
- 椀物 もろこし真薯 陸若芽 蓴菜 クコの実 柚子
- 前菜 白茄子鴫焼き 雲丹とトマトのジュレ/子持ち昆布奉書巻/蟹と青瓜の雷干し 黄身酢掛け/紅葉豚低温調理と無花果の白酢ソース/バイ貝甘煮
- 造里 旬魚 氷鉢盛り あしらい一式
- 煮物 鱧と冬瓜の茶碗蒸し 銀餡 梅肉
- 強肴 黒毛和牛炭火焼き/鮎塩焼き 蓼酢/ずんだ高野豆腐/ほおずき南瓜/水雲とろろ
- 飯物 地穴子炙り 茶漬け仕立て 薬味いろいろ
- 甘味 夏菓の大福 カカオアイス添え
- 抹茶 おうす


椀物 ― もろこし真薯 陸若芽 蓴菜 クコの実 柚子

お献立の幕開けは、夏のとうもろこしの甘みをふんわりと閉じ込めた「もろこし真薯」。澄んだお出汁の中に、つるりとした蓴菜と、しゃきりとした陸若芽が涼やかに揺れ、クコの実の紅と青柚子の香りが夏の景色を結びます。

黒い漆の椀に描かれているのは、舞い散る紅葉。立秋を過ぎた葉月のお椀に、ほんの少しだけ秋を先取りする――そんな遊び心も、蓋を開ける楽しみのひとつです。
前菜 ― 夏の実りを集めた、五つの小さな宝箱

白い岩肌のような大皿に、青もみじを添えて五品。ひと皿の上に、晩夏の実りがぎゅっと集まりました。

白茄子鴫焼き 雲丹とトマトのジュレ

とろりと焼き上げた白茄子に、完熟トマトの赤いジュレをまとわせ、雲丹をひとさじ。染付の器の藍が、夏の味の濃さを涼しげに引き締めます。
子持ち昆布奉書巻

お祝いの品を包む白い和紙「奉書」に見立てて、真っ白な大根で子持ち昆布を巻きました。プチプチとはじける黄金色の粒は、古くから子孫繁栄の縁起物。新しい命を祝う席に、これほどふさわしい一品はありません。
蟹と青瓜の雷干し 黄身酢掛け

「雷干し」は、瓜をらせん状にむいて干す夏の技法。その形が稲妻に似ていることから名付けられました。コリコリとした青瓜に蟹のほぐし身を合わせ、まろやかな黄身酢をとろり。
紅葉豚低温調理と無花果の白酢ソース

低温でじっくり火を入れた豚肉は、しっとりときめ細やか。晩夏から実りはじめる無花果に、豆腐仕立てのやさしい白酢ソースを添えて。果実と肉の甘みが静かに寄り添います。

バイ貝甘煮

つややかな貝殻ごと盛り付けた、ふっくら炊き上げのバイ貝。爪楊枝でくるりと引き出せば、甘辛い煮汁の香りがふわり。小さな一品にも手間ひまが宿ります。
造里 ― 旬魚 氷鉢盛り

今月のお造りは、目にも涼しい「氷鉢盛り」。切子調のガラス鉢にたっぷりと氷を敷き、竹の簀を渡して、旬の魚を花のように盛り込みました。鮪の深い紅、白身魚の淡い桜色、意匠を凝らした飾り巻き。すだちの黄緑と花穂紫蘇の紫が、氷の上にひとすじの彩りを走らせます。


冷たいものは冷たいまま――当たり前のようでいて、産院の食事ではなかなか出会えない心配りです。
煮物 ― 鱧と冬瓜の茶碗蒸し 銀餡 梅肉

夏の魚の代表格・鱧と、夏が旬の冬瓜を合わせた、ふるふるの茶碗蒸し。表面には出汁のうまみを閉じ込めた銀餡が静かに張られ、真ん中に梅肉の紅がひとつ。蓋を開けた瞬間の湯気ごと、匙ですくっていただきます。

温かく、消化にもやさしい蒸し物は、産後のおからだへのいたわりそのもの。絵付けの蓋物と朱の匙の取り合わせも、どこか夏の宵のような風情です。
強肴 ― ほおずきの提灯が灯る、盛夏の一皿

ガラスの大皿に、今月いちばんの賑わいを盛り込みました。


黒毛和牛炭火焼き

炭火で香ばしく焼き上げた黒毛和牛は、断面がやわらかなロゼ色。豆苗の緑をあしらって。
鮎塩焼き 蓼酢

夏の川の恵み・鮎を、姿のまま塩焼きに。ほろ苦い蓼酢の緑と、はじかみの桃色が夏の川辺の景色を描きます。
ずんだ高野豆腐

お出汁をたっぷり含ませた高野豆腐に、枝豆を刻んだ翡翠色の「ずんだ」をのせて。東北の夏祭りを思わせる、8月らしいひと品です。
ほおずき南瓜

今月の主役です。オレンジ色のほおずきの萼をそっと開くと、中から現れるのは艶やかに炊かれた南瓜。お盆の食卓を照らす小さな提灯が、新しい命を迎えたご家族の行く先も、明るく照らしてくれますように。
水雲とろろ

染付の猪口にひんやりと。つるりとした水雲のとろみが、賑やかな一皿の合間の口休めになります。
飯物 ― 地穴子炙り 茶漬け仕立て 薬味いろいろ

締めのごはんは、瀬戸内・広島の味「地穴子」。ふっくらと炙った穴子の照りに、土鍋で炊き上げた白いごはん、出汁の入った土瓶、そして白髪葱・青紫蘇・山葵などの薬味がずらり。


一膳目は炙り穴子をのせてそのまま。二膳目は薬味をのせ、土瓶の熱い出汁をまわしかけて、さらさらと茶漬け仕立てに――ひとつのお料理で二度おいしい、広島の産院ならではの締めくくりです。産後で食欲が揺らぐ日にも、出汁の香りがやさしく箸を進めてくれます。

甘味・抹茶 ― 夏菓の大福 カカオアイス添え/おうす

最後は、青竹色のガラス皿に笹の葉を敷いて。夏の果実を包んだ白い大福に、ほろ苦いカカオアイスを添えました。「PORTE BONHEUR」の小さなチョコレートプレートは、この席が特別なお祝いであることの、ささやかなしるし。

そして、点てたてのおうす。きめ細かな泡の一服が、会席の余韻を静かに整えてくれます。和菓子とカカオ、大福と抹茶――和と洋がやわらかく手をつなぐ、Porte Bonheurらしい結びです。

新しい命とともに迎える、はじめてのお盆に
葉月は、家族が集う季節です。帰省した家族が久しぶりに顔を合わせ、ご先祖様に手を合わせ、新しい家族のお披露目をする――そんな8月に生まれた赤ちゃんとご家族の「はじめての夏」を、Porte Bonheurの御祝会席がお祝いします。

御祝会席は、ご家族様とご一緒に召し上がっていただけます。退院前のひととき、生まれたばかりの小さな命を囲んで、土鍋の湯気の向こうに笑顔が並ぶ。その一コマが、いつか思い出になりますように。

藤東クリニックは、女性のライフサイクルに寄り添いながら、「気軽に来ていただける場」であるために日々進化しています。Porte Bonheur――幸福の扉は、いつでも皆様のために開かれています。










